2007年10月30日

アナザーベンジャミン

 ベンジャミンがいた。1人目のベンジャミンは背が高く、2人目のベンジャミンは小太り。3人目のベンジャミンは陽気に笑い、4人目のベンジャミンはなんの取り柄もない。
 5人目のベンジャミンはお人好しで、6人目のベンジャミンは怒りっぽい。7人目のベンジャミンは理屈にうるさく、クイズが嫌い。8人目のベンジャミンは好奇心旺盛で質問が続き、9人目のベンジャミンは眠ってるときが天国。
 10人目のベンジャミンは菜食主義で、昼は果物。卵もときどき野菜。11人目のベンジャミンは田舎暮らしで都会に憧れている。12人目のベンジャミンはフリスビーがうまく、13人目のベンジャミンは金曜日にこだわらない。
 14人目のベンジャミンは白い服をたくさん持っていて、15人目のベンジャミンは1枚も持っていない。16人目のベンジャミンは裏声で歌を歌える、大きな声で。たまに『うるさい』と怒鳴られるけれど。17人目のベンジャミンは円周率を1705桁まで言える。だけど、その数字が正しいのか誰も知らない。18人目のベンジャミンは酸っぱい物が苦手で、19人目のベンジャミンは名前を忘れられるのが得意。
 20人目のベンジャミンはいつもガムを噛みながら仕事をしていて、21人目のベンジャミンはペンギンを飼っている、心の中に。22人目のベンジャミンは料理をする、ごくたまに。晴れた休日の夕暮れどきには。23人目のベンジャミンはある真実を知っている。だけど、それを誰にも言わない。だから、それが重要なことなのかも分からない。
 24人目のベンジャミンは遅刻する。謝らない。気にも留めていない。25人目のベンジャミンはいつも待たされる。不平を言っても埒があかない。次は自分も遅れて来ようと思うのだけど、時間通りに着いてしまう。25人目のベンジャミンは『要するに』と言う。結論みたいなことを言う。誰でも知ってることなのに。26人目のベンジャミンは27人目のベンジャミンほどは度胸がない。
 28人目のベンジャミンには夢がある。誰にも譲れない夢が。29人目のベンジャミンは毎晩見る悪夢を誰かに譲りたい。
 30人目のベンジャミンは旅に出る。町から町へ、ただ気の向くままに。31人目のベンジャミンは温暖化が気になる。夏が来るたびに今までになかったほど暑い夏だと思う。それで、とうとうエアコンを買う。32人目のベンジャミンは月夜の海でボトルを拾う。すかさず、波打ち際まで走って大きく海に投げ返す。「海のバカヤロー」とか気まぐれに叫びながら。
 33人目のベンジャミンは夜更かしをする。昼の失われた自由を取り戻すように――。34人目のベンジャミンはカラスに怯えている。だからといって黄色い傘を差すのはファッションセンスが許さない。35人目のベンジャミンは密かに黒猫に怯えている。それほど死は微かに甘く身近な存在ではあるが、実際に亡くなった人はお祖母さん一人しか知らない。
 36人目のベンジャミンは種を植える、自然が好きだから。春にはカタカナだらけの不自然な花壇ができあがる。37人目のベンジャミンは人の悪口を言うのがうまい、痛烈なまでに。だから……友人も多い。
 38人目のベンジャミンは背が低い、世間的に言えばチビ。39人目のベンジャミンは空を見上げる。澄み切った青空、そびえたつ入道雲、彼方から広がる鱗雲、まばゆい茜空。40人目のベンジャミンはつらいことがあると大食になる。といって、いいことが続いても食が細るという訳ではない。41人目のベンジャミンは笑わない、かりそめにも。
 42人目のベンジャミンは海岸を散歩する。時々、砂浜に落ちている物を拾う、空き缶、ボトル、拾わなければ砂に埋もれてしまうもの。それがいつか夢の島になるとは知らない。43人目のベンジャミンは電車に揺られる。いつも、時間を気にしながら。
 44人目のベンジャミンはカレンダーをめくるのが好きだ。しかし、年末が近づくとさすがに寂しい気がしてくる。45人目のベンジャミンはコーヒーにミルクを入れる、コーヒーとわからないようにたっぷりと。46人目のベンジャミンはまったく後悔しない。それほど運がいい。
 47人目のベンジャミンは道に迷う。戻ろうとして、また道に迷う。道を聞いても、やっぱり道に迷う。48人目のベンジャミンは猫をかぶる。おとなしく、おとなしく。当然ねずみに飛びかかるすべも心得ている。49人目のベンジャミンは本を最後まで読んだことがない。
 50人目のベンジャミンはゼンマイ仕掛けで動く。いつゼンマイのねじを巻かれているのか、誰が巻いているのかは知らない。ただ、自分で巻いているような気はしない。51人目のベンジャミンは嘘をつけない、と嘘をつく。嘘をつくと顔に出るから、と平気な顔で嘘をつく。
 52人目のベンジャミンは無人島に流れ着く。南国の気候は豊潤な果実に満ち、目前の海が尽きない恵みを与えたとしても。遙か文明社会からの助けを願い、ベンジャミンは独り月夜の海に手紙を込めたボトルを流す――。

(2007.10.30)

ペンギンフェスタ2007に参加しています。


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posted by 貴 | Comment(2) | TrackBack(0) | 企画もの
この記事へのコメント
悪友は他のサイトを回るので忙しいのでここは僕が

マイナス1人目のベンジャミンはタカと名乗っているが、本人は人間と思っている。なぜなら、ジャングルマンデーに猿や馬が鶏の会話が不覚にも分からなかったからだ。マイナス2人目のベンジャミンは風見鶏だ。自分が陰なのか表なのか、あるいは陸上動物か海洋性動物なのか自信が無い。マイナス3人目のベンジャミンは黒い翼を持っているが自分はコウモリではないと主張している。マイナス4人目のベンジャミンは氷の上を好むが明らかに白熊ではなく、マイナス5人目のベンジャミンと共に脂肪太りしている。ただし、それは毎年無くなるものだが。マイナス6人目のベンジャミンは火星のように植物の生えない寒い土地を夢想している。マイナス6人目のベンジャミンは、、、、
Posted by 山仙 at 2007年10月31日 02:49
私たちは、「○人死亡」とか「出生率○%」とか、人間を数字で量ることに馴れてしまいましたが、本当はその中にひとりひとりの顔があることを、このお話を読んで感じました。
人間が環境や自然の一部ならば、私たちが破壊している環境や自然にも、ひとつひとつの顔があるのだと。
私も心にペンギンを飼いたいです。
Posted by butapenn at 2007年12月04日 07:37
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