2006年05月29日

ミカタのテキ

 シロはタカシの家の前に来ると、座ってハッハッハッと軽く息をつきながらボクの方を向いた。真っ白なしっぽを左右に振って、どうするのかと聞くようにボクの顔を見る。
「うん、シロ。今日もタカシは来ないよ。」
シロのひもを軽く引いて歩き出すと、シロはボクに向かって「ワンッ」と小さく吠えてから、再びボクの前を歩き出した。だって、しかたないじゃないか。タカシは今、ボクのテキなのだ。タカシとユウ君は今、ケンカをしている。ボクはユウ君のミカタだって約束しちゃったから、タカシはボクのテキなんだ。だから、タカシはシロの散歩にも来なくなったし、ボクも誘わないことにしてるんだ。タカシの家の前を通る時はまるでピーマンを無理矢理口に飲み込んだあとみたいな苦さを口の中に感じるけど、僕はそれを耐えなくちゃいけないんだ。
 2人のケンカはすぐ終わりになると思ったのに、もう1週間も続いている。顔を会わせてもお互いムシを決めこんでるみたいだ。いつものケンカだったら、すぐにユウ君が放課後誰かと話しながら、タカシにわざと聞こえるように大きな声で言う。「ハハハ、これがタカシだっらさぁ……」それを聞いたタカシが真っ赤な顔して掴みかかってきて、しまいには2人で怒って別々に帰っちゃうんだけど、それで終わり。翌朝にはナゼか2人ともちょっと気まずそうに「よぉ」とか声をかけ合って、すぐに昨日までのケンカなんてなかったように仲良くなってるんだ。だけど、今回はちょっと違うみたい。ユウ君もあまり大きな声で話さないし、タカシも「なにおー」って言いながら掴みかかってきたりしないんだ。
 ボクは特にユウ君と仲がよかった訳じゃないんだ。むしろ、タカシとボクは親友で、タカシとユウ君はケンカしてないときは仲がよかったから、なんとなくいつも3人でいた。それが、たまたま今回のケンカが始まった日、タカシは怒って先に帰っちゃったから、ボクはユウ君と一緒に学校から帰ったんだ。その時、ユウ君はタカシのことすごい怒っていて、ボクに向かって「あんなやつとは、もう絶交だよ。お前は僕の味方だよな」って言うんだ。あんまり真面目な顔で何度も言うもんだから、ボクはつい「うん」って、返事しちゃったんだ。それで、この先ずっとタカシとテキになるとは思いもしないで。
 シロはユウ君の家に前に来ると、再び座り込んでボクの方を見た。ボクは首を横に振る。
「ごめん、シロ。ユウ君も今日は誘わないよ。」
ユウ君も今はボクのテキだから。昨日、シロの散歩の帰り道にユウ君と別れた後で、たまたまタカシと会ったんだ。なんかお互い気まずかったけど、ムシするのも変な気がして、思い切って「やあ」って声かけてみた。そしたらタカシもなんか嬉しそうな顔して、よぉって返してきたんだ。それで、2人でいつも通りシロの散歩道をタカシの家まで歩いた。その間、お互いに何もしゃべらなかったけど。だけど、最後にタカシの家の前に来たとき、急にタカシが真面目な顔して言うんだ、「俺たち、友達だよな」って。ボクがビックリしてタカシの顔を見ると、タカシは自分の言ったことに気づいたのか照れた顔をして、すぐに「じゃあな」と言って家に入っちゃったけど。
 本当はタカシがそんなことを言った理由を僕も知っていると思う。一昨日はタカシの誕生日だったんだ。僕の覚えている限りタカシの誕生会に僕が行かなかったことはないし、タカシが僕の誕生会に来なかったことはなかった。一昨日までは。だから、タカシが何気なく現れた時ものすごく気まずかったけど内心少しほっとしたし、そんな嫌な気分じゃなかった。僕たちは何もしゃべらずに黙って歩いたけど、お互いに無視しているわけじゃなかったし、のどが渇くような気がしたけど、それでも少なくともピーマンよりは何十倍もましだった。
 それで、タカシが家の前で「俺たち、友達だよな」って言った時、僕は気がついたんだ。やっぱり今でもタカシはボクの友達なんだって。だから、ボクはタカシのミカタで、ユウ君はタカシのテキだから、ユウ君はボクのテキ。タカシはユウ君のテキで、ボクはユウ君のミカタだから、タカシはボクのテキ。――結局、二人ともボクのテキになっちゃうんだ。ちょっと寂しいけど、仕方がないんだ。
「シロ、お前はボクのミカタかい?」
僕が前を行くシロに向かって声をかけると、シロは立ち止まって僕の方を向いた。そして、クリクリ動く目で僕を見上げると、さもじっくり考えなくてはと言わんばかりの表情をした。えっ、シロ……。すると、シロはすかさずいつものようにしっぽを左右に大きく振った後、小さく――だけどハッキリ「ワンッ」と吠えた。

(2006.5.29改訂)


この作品はデジタル社会塵第20回に参加しています。
条件:
 1)主人公はある食べ物が嫌い。
 2)主人公にはある出席するべき記念日があったが、なんらかの理由によりその記念日に
   出席できない。
   ※出席したくない、はNG
 3)作品中、登場人物は主人公を含めて3人までとする。
   ※回想シーンなど含む。


― いかがでしたか?(さらに詳しく
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posted by 貴 | Comment(0) | TrackBack(0) | 企画もの
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