2006年05月21日

ストロベリー・デイズ

 再会は突然だった――
 人より長い大学生活を満喫したせいで就活のウリは知力より体力、それが功を奏したのか入社早々あてがわれたのは支社営業で「君はあそこの出身なんだろ、いいところじゃないか。」悪いところだとは言わねぇけどそこいたのはホンの一年たらずで、たまたま履歴書の中学がそこになってるからって出身地だと思うなっ、とは言えず「がんばります」とか意味もなく答えて辞令を渡されて赴任してきたのがほんの十分前。支社には昼過ぎに顔出しゃいいなと時間潰しを決め込んで長い間居座れそうな出来るだけスいていそうな喫茶店を探して入り込んだら、彼女がいた。
 一目見て思い出すなんてワレながらセンチメンタルだと苦笑する前に彼女の方も気がついて「佐々木君、佐々木君よね?」なんて声かけてきたから、知らずに頬がにやけて「おう、久しぶり」なんてうわずった声で返事しちまった。彼女は中学の時のクラスメートで容姿端麗、目のパッチリした可愛いい笑顔が気になるって、ああ転校してすぐから気になってたね。夏、花火、西浜海岸って聞いたこともねぇ花火大会に誘われて行ったら隣で彼女が笑ってた。その頃から彼女とはやけに親しくなって、いずれは……なんて思ったものさ。あの頃はクルマはおろか原付にも乗れずカッコつけて自転車に乗っていたなんて、笑っちゃうぜ十五の夏は。
 彼女にも誰にも卒業前に親父の転勤で遠くに行くなんてことは言ってなかった。だから、卒業前に俺だけのためにクラスのみんなで卒業式みたいなものをやってくれた時には嬉しかったな。あの時もらった寄せ書きは、実は今でも大切にしまってある。彼女は色紙に「また会えるかな」なんて書いた、その彼女が今、俺の目の前にいる。
「中学校以来ね。こっちにまた越してきたの?」
あの頃と変わらない様子で、親しげに彼女が話しかけた。店員の彼女とスーツを着た俺、他に誰もいない。
「この町に転勤になったんだ」
ヨロシクっと言いそうになって思いとどまった、転勤になったからよろしく?なんて、不器用な社会人みたいじゃないかと俺は思い直して、中学校の頃の親友の名前を記憶の隅からたぐり寄せて口にする。
「そういや、西田って今どうしてる」
そしたら、彼女、嬉しそうな顔をして「私達、この春に結婚するの」と言ったんだ。彼女の指に光るエンゲージリングを見たとたん甘かったはずの思い出が酸っぱくなっちまうんだから、泣けてくるぜぇホント。

本編は「千文字世界 −禁断の果実−」に参加しました。
条件:
☆千文字世界制限
 千文字以内の作品であること。
☆禁断の果実制限
 タイトルに果実の普通名詞を含めること。
 本文にタイトルで使用した果実名称を使用しないこと。


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posted by 貴 | Comment(0) | TrackBack(0) | 企画もの
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